乳腺腫瘍は私たちの診察でも日常的によく見られる腫瘍です。良性悪性問わず、乳腺のある腹部領域(犬では乳首が左右5対、猫では4対)にしこりができます。飼い主様がお家で見つけて病院に連れてこられる場合が多いですが、診察時にたまたま見つかることもあります。
乳腺腫瘍特有の症状はありませんが、悪性腫瘍の場合は大きくなるスピードが速く、皮膚の表面が赤く腫れたり、ただれたりすることがあります。また、悪性の乳腺腫瘍では他の臓器に転移することがあり、転移してしまうと手術は基本的に不可能になります。
他に比較的稀ですが、炎症性乳がんという非常に悪性度の高い乳腺腫瘍があります。乳腺領域に板状や棒状の腫瘤を認め、多くは発赤や熱感、痒み、痛みを伴います。炎症性乳がんは手術不可能な乳腺腫瘍とされており、早期に転移を起こし、生存期間も短い非常に悪い腫瘍です。
中年期以降の雌犬の乳腺にしこりができている場合には、第一に乳腺腫瘍を疑うことができます。しかし、同じ領域にほかの腫瘍が発生する可能性もあるので、細い注射針で腫瘍の細胞を採取することによって簡易な診断を行うことが多いです。ただ、良性か悪性かの判断は視診や針吸引検査では基本的にわかりませんので、腫瘍の詳細を知るためには外科手術が必要になります。
乳腺腫瘍は、避妊手術を若齢時に実施することで発生率を軽減できることが一般的に知られています。また、犬では良性、悪性の比率は1:1であり、猫の場合は85%が悪性といわれています。
治療は基本的に外科手術が選択されます。抗がん剤などを使って腫瘍を小さくすることはできません。乳腺腫瘍の大きさや場所などによって部分切除や領域乳腺切除、片側乳腺全摘切除などを行います。また、乳腺腫瘍の切除手術と同時に卵巣子宮摘出(避妊手術)を行うことがあります。乳腺腫瘍の再発を抑えるかどうかは未だ研究者の間で賛否両論ありますが、将来的な卵巣子宮疾患(卵巣の腫瘍、子宮蓄膿症など)を予防する目的で実施しております。
外科手術で切除した乳腺腫瘤は病理組織検査を行い、補助療法(抗がん剤など)を行うことがあります。
良性腫瘍は浸潤性の低い悪性腫瘍は外科手術で根治します。腫瘍の大きさ、臨床ステージなどによって悪性腫瘍の予後が変化するとされています。転移がある腫瘍や、炎症性乳がんは予後不良です。