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椎間板ヘルニア

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椎間板ヘルニアは犬にとって恐ろしい病気です。

昨日まで元気に走り回っていたワンちゃんがある日突然歩けなくなってしまう・・・椎間板ヘルニアはそんな恐ろしい病気です。近年ミニチュア・ダックスフントの飼育頭数の増加に伴ってバーニー動物病院でもこの病気の治療を行うことが著しく増加しました。
当院において椎間板ヘルニアを疑うワンちゃんが来院された時にどのように診断し治療していくかをご説明します。

 

椎間板ヘルニアとは

脊椎(背骨)と脊椎との間でクッションのような役目をはたしている椎間板が脊椎管内に脱出することで脊髄神経を圧迫する事により、神経機能の低下、痛みや麻痺といった症状を起こします。

ペットがこんな症状をうったえたら

このような症状は椎間板ヘルニアの可能性が考えられます。

  • 痛み  突然キャンキャン鳴く、首や腰の強ばり、ふるえ、触れると咬みにくる
  • 跛行  脚を引きずる、挙上(引き上げたままにする)、ふらつき
  • 麻痺  急に立てなくなる、排泄出来なくなる

椎間板ヘルニアはどのように診断するのか?

1.身体検査および神経学的検査

ある意味で最も大切な検査です。実際に痛みだけなのか?麻痺しているのか?後脚だけなのか前脚もおかしいのか?意識状態は正常か?身体の各部位の神経学的な反射の状態を確認する事により、今起きている症状が椎間板ヘルニアを疑わすものなのか?そうであるならば病変部位はおよそどのあたりなのか?を推定します。

2.レントゲン検査

単純なレントゲン検査のみで椎間板ヘルニアであるのか?病変部位がどこにあるのかを明確にすることは困難ですが、疑わしい部位がどのあたりなのか、関節疾患などの他の疾患との鑑別のためには必要な検査です。

3.CTおよびMRI検査

最終的な確定診断はCTおよびMRI検査または脊髄造影検査で脊椎管内の神経を飛出した椎間板が圧迫している事を確認する事により可能となります。あたかも椎間板ヘルニアの様な症状を示していても脊髄神経の梗塞や腫瘍など違う病気の事も有ります。CT、MRI検査は実際に神経のどの場所が圧迫されている事を確認して手術のプランをたてるためにも不可欠です。

 

椎間板ヘルニアの治療について

保存療法(内科的治療)

比較的症状が軽度な場合に保存療法(内科的治療)をおこないます。

  • 痛みだけで麻痺が表れていない場合やふらついているが歩行可能な場合
  • 足先の痛みの感覚(深部痛覚)が消失していない場合
治療方法内容
1)ケージレスト

狭い場所で可能な限り安静に過ごすようにしますが自宅で安静に出来ない時は入院する事もあります。

2)投薬

痛みの軽減、神経の炎症、腫脹の軽減のために消炎鎮痛剤を投与します。

3)レーザー照射

医療用レーザーを患部に照射する事により痛みなどをの症状を軽減させます。

椎間板ヘルニアの保存療法 レーザー照射

4)ウォータートレッドミル
(水中ウォーキング)

水中で歩行する事により体重の負荷を出来るだけ 少なくしながら運動機能の回復をはかります。

外科的治療

より症状が重度な場合に外科的治療をおこないます。

  • 歩行ができない
  • 排泄ができない
  • 内科的治療を一定期間行ったが改善しない
  • 足先の痛みの感覚(深部痛覚)が消失している

1)ヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)

主に胸部から腰部の椎間板ヘルニアに対して適用脊髄を取り囲む椎骨の片側を削る事により脊髄神経を露出して減圧するとともに突出している椎間板を取り除く

ヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)

2)ベントラル・スロット(腹側アプローチ術)

主に頚部の椎間板ヘルニアに対して適用頚部椎骨に対して腹側からアプローチして椎体を削り、脊髄神経の減圧とともに突出した椎間板を取り除く

ベントラル・スロット(腹側アプローチ術)

3)レーザー椎間板減圧術(PLDD)

ある種の光ファイバーを椎間板に挿入しレーザーを照射する事により椎間板を蒸散させ椎間板内圧を下げる治療。経皮的に処置する事も可能でありより低侵襲。突出する前の椎間板に対して予防的に実施する事も可能。

レーザー椎間板減圧術(PLDD)

 

手術を受けたら歩けるようになるのか?

このような質問を飼い主様からよく受けます。無責任なようですが、その答えは“分かりません”です。
骨折の手術は折れている骨を何らかの形で固定して治癒に導きます。腫瘍切除の手術は悪い腫瘍の塊をからだから取り除きます。すなわち、直接病変と言われている悪い部分に対して治療を施していくのです。
それに対して椎間板ヘルニアの手術は神経そのものを治すのではなく、あくまでも神経の周りにあるものを取り除く事によって神経のダメージを軽減しているにすぎないのです。どんなに完璧な手術を実施したとしても激しく損傷してしまった神経を元通りにする事は困難なのです。
ただし術前のその子の症状や経過、様々な検査所見、手術中の肉眼的な脊髄神経の損傷の程度によって、再び歩けるようになる可能性が高いのか低いのかという確率の話はある程度できるかも知れません。
過去に当院で椎間板ヘルニアの手術を受けたペット達の約8割は日常生活に遜色ない程度に歩けるようになっています。ただ回復せずに麻痺が残る場合があるのも事実です。 

リハビリテーションの重要性

椎間板ヘルニアの治療は手術ですべて完了した訳ではありません。
術後の回復を出来るだけスムーズにするためにはリハビリテーションが欠かせません。ここからは飼い主さんの出番です。
ご自宅でのマッサージ、様々な補助運動、病院で行うレーザー照射、ウォータートレッドミル(水中ウォーキング)を組み合わせることで明らかに回復がスピードアップします。

以上がバーニー動物病院で行っている椎間板ヘルニアに対しての治療方法の概要です。
概して椎間板ヘルニアは進行性の病気でありどの段階で治療を開始するかによって改善するがどうかが大きく左右されます。
大切なペットに今まで述べたような症状が認められた時は出来るだけ早く受診される事をお勧めします。