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尿管結石

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尿管結石

かつて猫の尿石症といえば、リン酸アンモニウムマグネシウム結晶(ストラバイト結晶)が原因で起こる尿道閉塞でした。近年キャットフードのストラバイト結晶対策によりその症例はかなり減りました。他方でストラバイト結晶ではないシュウ酸カルシウム結石を原因とする尿管結石症が増加しています。尿道閉塞においては何回もトイレに行くがほとんど尿が出ていない。排尿しようとして大きな声で鳴く。など目に見えるはっきりした症状を訴えますが、尿管結石の症例は何となく元気や食欲がない、嘔吐する、尿量が減っているような気がするなど症状が曖昧なことが多く診察時の血液検査により腎機能の悪化、腹部超音波検査により腎盂が拡張した腎臓(水腎症)を確認してはじめてそうとわかるケースがほとんどです。

尿管結石はもともと腎臓内で形成された結石が尿管内に移動することにより発症します。腎臓は左右2つあるため片方の尿管が閉塞しても血液検査上では正常であることも多く、何となく元気がないでやり過ごされている例もあります。片方の腎臓の機能がすでに低下している症例において機能している腎臓側の尿管が閉塞すると急性腎不全を発症します。

尿管が閉塞すると腎臓から尿が排出されないため腎臓内の腎盂が拡張し水腎となります。水腎となり急性の腎不全を発症している尿管閉塞は救急状態であり最悪死に至るケースもあります。点滴療法や内服薬の投与による内科治療にて水腎症が改善し急性腎不全から回復できるケースもありますが内科治療にて回復しないケースでは外科的治療が選択されます。

外科的治療には結石を摘出して尿管を縫合する方法、ステントと呼ばれるチューブを尿管内に挿入して尿の排出路を確保する方法、SUBシステムと呼ばれる尿管を介さずにダイレクトに腎盂と膀胱を繋いでしまう方法、尿管の比較的太い部分と膀胱を吻合する尿管膀胱新吻合術などの方法があります。それぞれの方法に利点欠点があり、当院ではその症例の状態によって手術方法の選択しています。

SUB(Subcutaneous Ureteral Bypass)システム

SUBシステムは腎臓と尿管を専用の特殊な器具を用いて直接つなぐ手術です。尿菅を介さずに直接つなぐため、尿管内に複数個の結石が存在している場合、尿管そのものが広範囲に狭窄している場合、急性尿毒症の程度がひどく手術時間をあまりかけられないケースに適用されます。SUBシステムの利点は尿管の完全にバイパスしてしまうため尿管の状態の影響を受けず比較的短時間で手術が完了できる点です。ポートと呼ばれるチューブの洗浄システムを皮下に設置するため定期的に洗浄を行ってチューブの閉塞予防をしたり解除することができます。欠点としてはチューブ内に砂状の結晶が目詰まりしたり慢性的な感染を引き起こすケースも多く長期的な予後はあまり期待できないことです。しかし尿管閉塞自体が救急状態であることが多く、その時点で何とかその子を救うためにこの方法を選択するケースも多いです。

膀胱尿管新吻合

膀胱尿管新吻合は膀胱に近い部分の尿管が狭窄していたり、慢性的な炎症をともなっているため結石を取り除いても疎通が維持できないケースに対して尿管が比較的太い腎臓に近い部分で切断して直接膀胱に吻合する手術です。この方法の最大のメリットは生体内に異物を残さないということです。SUBシステムでみられるように人工的なチューブは感染の温床になりやすくトラブルを起こした時は最悪交換しなければならなくなります。その点では膀胱尿管新吻合は慢性的な感染は起きにくく比較的太い尿管で膀胱と吻合するため再閉塞の危険性が少なく長期的な予後が期待できます。欠点としてはかなり繊細な手術になるため術者にテクニックが要求される点と比較的手術時間が長くなる点です。その子の状態が比較的安定している場合はこの方法が選択されることが多くなってきました。

ステント設置術

尿管閉塞症例の中で比較的状態は安定しているが尿管の拡張があまり起きていないケースでは尿管と膀胱の吻合術は行いつつ尿管内にステントを設置するケースがあります。拡張していない猫の尿管はかなり細く吻合が難しく術後の狭窄リスクがあります。その様な時にステントを設置することで尿管の術後狭窄を防ぎます。この方法のメリットは尿管を残すため尿管本来の機能を温存できる点です。尿管は単なるチューブではなく蠕動運動という波打つような動きで尿を膀胱に送り込んでいます。尿管内に蓄積する老廃物に対する自浄機能がそこにはあります。欠点はステント自体も異物であり感染源になりやすい点です。

この様に当院では尿管結石における様々な状況に対応できるように準備しています。